第75章 今日の猫来井さん②
「ちょっと!翔ちゃん!どうしたのさ!」
ぺちぺちと頬を叩かれています。
「しっかりして!翔ちゃん!」
ああ…猫野さんの声だわ…
「あ…猫野さん…」
目を開けると、心配そうに私の顔を覗き込む猫野さんの顔が見えました。
「どうしちゃったのさ?急に倒れて…」
「ね、猫野さんっ…」
がばっと起き上がると、そこは台所でした。
慌ててシンクをみると、やっぱりそこには水槽があって…
「あのっ…あの海鼠さんっ…」
「あ?ああ…なんか釣りいったら釣れたから…持って帰ってきちゃった」
「あれは普通の海鼠さんなんですか!?」
慌てて立ち上がって水槽の中を見ると、そこには黒い塊がたゆたっていました。
「は?」
「だってさっき…」
いや、ちょっと待てよ。
もしかしてあれは夢だったのか?
海鼠が喋るだなんて…
パタンパタンと猫野さんが、台所の床に座りながらしっぽで床を叩いています。
「あー…聞いちゃった?」
「え?」
「おーい。なまこよ。おまえ翔ちゃんの前で喋っちゃったの?」
猫野さんが座ったまま声を掛けると、ざぱあと水面が揺れて海鼠さんが飛び出してきました。
「ぎょえっ…」
べたんっと私の顔に海鼠さんが張り付きました。