第75章 今日の猫来井さん②
それだけ言うと、また猫野さんは夢の世界にお戻りになりました。
子猫のような寝顔をしばらく眺めてから、仕事に取り掛かります。
「あら…?これはなにかしら…」
いつものように台所から仕事を始めようと、リビングと間続きのキッチンに立つと、見慣れない水槽がシンクに置いてあります。
猫野さんは釣りがご趣味だから、なにか釣ってらしたのかしら…?
そう思って水槽の中を覗き込むと、突然顔にびゅっと水が飛んできました。
「ふにゃっ!?」
思わず飛び上がって後ずさり、お尻を思い切りアイランドキッチンの作業台にぶつけてしまいました。
「い、痛いっ…」
お尻を押さえていると、またその水槽からびゅっとお水が飛び出してきます。
「あ、あれ…」
顔にかかったお水は、しょっぱい味がします。
海水かしら…?
「なんでしょう…」
そっと近づいて覗き込むと、水槽の中に黒い物体が…
「こ…これはっ…」
海鼠ではございませんか!
「あらあ…猫野さん、これをどうなさるのかしら…酢の物?」
めったに食べられない珍味ですから、私の腕が鳴ります。
驚かせないよう、そっと水槽に手を入れると海鼠を指でちょんとつついてみます。