第69章 海鳴り~父、あけぼの荘に帰還す。
「いやあ…だってさ。父ちゃん猛反対するかと思ったんだもん」
「あ?」
「でもさ…見てて納得だったでしょ?」
「…まあな…いい夫婦に見えたよ…」
実際なあ…
ちびたちも懐いてるし、仕事も骨惜しみせずやってるし。
「まるでさ…父ちゃんと母ちゃんみたいだなって思わない?」
ふふふと笑うと、ひらひらと手のひらを振って雅紀は車に乗り込んだ。
「な、生意気言うな!」
「ほんとはちょっと思ったんでしょ?」
「う…」
「わっかりやすー!」
「雅紀!」
「じゃあね!父ちゃん、頑張ってね!」
「お…おまえもなっ!」
チャキっと敬礼すると、雅紀は車を出した。
「はあ…」
どっと疲れた…
乗り込んだ在来線はガラガラで…
窓辺の席に陣取って、外を眺めた。
海岸沿いを電車は走る。
今日は少し波があるが、空は晴れ、きらきらと海面には太陽が反射している。
うとうととする俺の耳に、海鳴りが聞こえてくる。
”ねえ、まーくん…”
なんだよお…萌香
”心の目、開いたね”
そうかあ…?開いたか…?
”ばっちり”
やべえな…俺もう死ぬのかな
”ばーか。あんたは百まで生きるわよ”
そんな長生きしたくねえなあ…
”私の分まで…生きるんでしょ…?”
「…わかったよぉ…萌香」
遠くで海鳴りが、笑った気がした
【END】