第69章 海鳴り~父、あけぼの荘に帰還す。
心の目…
それは萌香がよく子どもたちに言って聞かせていた言葉だ。
”人の言葉や行動を表面的に見るのではなく、心の目で見なさい。そうしたら、本当のことが見えるよ…”
「翔から聞いたのか?」
「はい。俺、ずっと閉じてきてたから…だから、まだ心の目、開いてないんです」
「そうか…」
よっぽど…心を閉じて生きてきたのか…
そうしないと生きてこれなかったのか…
”心の目、開くといいね…まーくん”
俺だって…まだ開いてるのかどうか…わからない。
「ま、ゆっくりやれや…」
「はい。まだリフォームとかは、先の話で…でも、お義父さんの許可は貰っておきたくて…」
「ああ。もう代替わりしたんだから、俺はとやかく言わねえよ。おめえらがいいと思うことやっていきな」
「それでも…」
「ん?」
「ここは、お義父さんの作った家ですから。お義父さんの家です」
「大野…」
「だから、これからもなんだって相談させてもらいます!」
そう言って、絨毯に手を付いて頭を下げた。
「これからも!どうかよろしくお願いします!」
ほんと、敵わないねえ…
きっとこいつらに任せておけば、あけぼの荘も安泰だろう。
俺は、安心して海の上に帰れるわけだ。