第69章 海鳴り~父、あけぼの荘に帰還す。
荷物を纏めていたら、大野が部屋に入ってきた。
「あの…お義父さん」
「お?なんだ」
大野は俺の横に正座すると、改めて頭を下げた。
「俺たちのこと、認めてくれてありがとうございます」
「よせよ…大人同士のことなんだから。とやかく言うほど野暮じゃねえよ」
「はい…あの、ご相談があって」
「あんだ?」
「あけぼの荘を昔みたいに通年泊まれる民宿に戻そうかと思ってて…」
「おお…」
「ただ、今のままの客室数だと手が回らないから、ちょっとリフォームして縮小したりしたくて…」
「そんな予算…」
「あけぼの荘を会社にしようかと思っています。そしたら俺も出資できるし…」
「いや、大野。それは」
「やりたいんです」
じっと、大野は俺の目をまっすぐに見る。
「…俺、実はここに死にに来たんです」
「え?」
「でも…ここの人たちに俺は、命を救われたんです」
「おまえが…?死のうとしてたのか?」
「実際、海に飛び込んで…雅紀には凄い迷惑をかけました」
「ばかやろうだな」
「はい。とてもばかやろうだと思ってます…」
「んで?」
「今はもちろんそんな気ありませんし。それに俺…まだ心の目、開いてないから…」