第69章 海鳴り~父、あけぼの荘に帰還す。
無理もない。
翔の病は一生モノだ。
油断したら命取りになりかねない。
食事療法や投薬で、随分と症状は抑えられるが、ただ抑えているだけであって…治るわけじゃない。
ちょっと無理すると、すぐに高熱を出して入院だ。
翔は、俺と違って頭は悪くない。
大学に行けといったのに、勝手に就職しやがって…
お金を貯めて、自分で大学に行くとほざきやがった。
宣言通り、一人暮らしをしながらも翔は着実に貯金を増やしていった。
でも…その貯金は結局、病気の治療に消えていくことになったが。
大野も…
これは翔から聞いた話なのだが。
35歳まで勤めた会社を辞めた時の退職金もあるし、実家住まいだったから貯金もある。
最近取った資格なんかは、自分で全部負担して取ったそうだ。
他にもいくつか資格もあるし、営業として働いてきた愛想の良さもある。
だから、もしも大野と翔の交際を反対されたら、二人でここを出て自活していくつもりだったということだ。
しかも、それでも翔はあけぼの荘にちびたちの世話はしにくるつもりだったようだ…
「たぁ…俺とは月とスッポンほど違うぜ…」
俺みたいに無計画に生きてきたのとは、人間が違うんだろう。
よっぽど俺よりしっかりしてやがる。
(雅紀は俺に似たはずだ)
四十路半ばで双子の父親になったのなんか、典型的な青天の霹靂だったしなあ…