第69章 海鳴り~父、あけぼの荘に帰還す。
ちゃぶ台の上の翔の拳が震えている。
ああ…激しいところも萌香そっくりだなあ…
その拳の上に手を重ねた。
「だったら…おまえたちのことも、俺は家族として、父として受け入れる」
「お父さん…」
「ただ、ちびたちが大学行けるくらいの金が貯まるまで、ここに留まっちゃくれねえか?今まで通り、二人で…大野とここを盛り立てていってくんねえか?」
萌香の生命保険の金は、実はあるんだ。
だけどそれは、ちびたちが結婚する時に渡してやりたいと思って、手を付けていない。
だいたい、四十も半ばを過ぎてから思いがけずできた子たちだ。
いつまで元気にあいつらの父親ができるかもわからないんだ。
だから…できるだけ金は遺してやりたい。
だから…俺は船を降りることが、まだできないんだ。
「そんなの…こっちがお願いしたいのに…」
「なんだったら、おまえたちで正式に跡継ぐか?」
「えっ…!?」
「老後にでもここをやれればいいかと思っていたがなあ…そのころにゃ、身体もガタが来てるだろうしなあ…おまえたちがやっていってくれるなら、こんなに嬉しいことはない」
「いいの…?」
「まあ、あとは雅紀の話も聞かなきゃいけないがな。あいつだってここで働いているわけだし」