第69章 海鳴り~父、あけぼの荘に帰還す。
「俺は、いいよ」
声が後ろから聞こえた。
振り返ると、居間の襖が開いた。
「ごめん…立ち聞きするつもりなかったんだけど…」
そう言いながら、雅紀が入ってきた。
その後から、大野も。
どっかりと雅紀は俺の隣りに座ると、にかっと笑った。
「俺、まだ23歳だしぃ?結婚なんて先の話だからさ。だから、このままここで住み込みながら働くからね?」
頭に巻いていたタオルを外すと、翔を見た。
「これからは、翔に雇って貰うってことになるんだね?」
「ま、雅紀…」
「俺、翔がここを継ぐのはむしろ長男だし当然だと思う。だから、俺はいいよ」
「じゃ、決まりだな。いいな?翔」
「お父さん…雅紀…」
「安心しろって!大野さんも居るんだし、ちびたちの面倒は俺もちゃんと見ていくから…あ!でも急に結婚したらごめんね?」
「ぶっ…おまえ、今、彼女居ないだろ…」
「…バレた?」
翔と雅紀はふふっと笑った。
「…翔…」
大野が翔を呼んだ。
翔は、これまたまっすぐに大野を見つめ返した。
頷くと、大野は翔の隣りに座って、畳に手を付いた。
「…すいません。本当なら、俺からちゃんと話さなきゃいけなかったのに…」
そう言って、深々と頭を下げた。