第69章 海鳴り~父、あけぼの荘に帰還す。
帰り際、片桐先生は門まで見送ってくれた。
「お休みの日に、翔さんと大野さんが和くんと潤くんを連れて歩いているのをみたことがあるんですけどね…まるで親子みたいで…」
「はあ…」
「おかあさんがいらっしゃらない分、ご家族で頑張ってらして…本当に若いのに頭が下がります」
「い、いえ…そんな…」
「だから、お父さんも安心してお仕事できるんですね」
そう言って、片桐先生は園に戻っていった。
「親子、か…」
トボトボと歩きながら、あの光景を思い出した。
そう、あれは…
昔の俺たちの姿―――
萌香がいて、俺がいて…
そして子どもたちがいて…
とても懐かしい風景
あけぼの荘に帰ると、翔が居間で繕い物をしていた。
どうやら雑巾を作っているようだ。
「翔…」
「あ、おかえり。ちゃんと片桐先生に挨拶できた?」
「む?ああ…できた」
「そう。いい先生だったでしょ?」
「ああ…そうだな」
多少不器用ではあるが、運針は止まることがない。
「なあ…翔」
「んー?」
「大野のどこが好きなんだ?」
「あっ痛ーーーーーー!」
突然、翔が指に針をぶっ刺した。
「な、な、何を言い出すんだよっ!」