第69章 海鳴り~父、あけぼの荘に帰還す。
食べ終わって、半分寝たままのちびの世話を翔とやって、やっと幼稚園に送り出す。
「お父さん、ちびたちを連れて行って?ついでに幼稚園の先生にも挨拶してきてね?」
「ああ。わかった」
幼稚園は、目と鼻の先にある。
以前は保育園に通わせていたが、この春に近所に幼稚園ができたから、転園させたのだ。
準備のできたちびどもと手を繋いで家を出た。
「いってきまーす!翔あんちゃん!」
「翔あんちゃん!いってくるー!」
玄関の前で見送る翔に、いつまで経ってもちびたちは手を振る。
「いってらっしゃーい!潤、和!」
ぶんぶんと手を振る翔の姿に、萌香の姿が重なった。
じわりと、目頭が熱くなった。
「父ちゃんどうしたの?」
「とーちゃん?どっか痛いの?」
「ち、違うわ!おら、行くぞ!」
ちびたちを無事に幼稚園に放り込み、担任の片桐先生にも初めて挨拶ができた。
入園式は海の上だったからな…
悪人顔の俺にも怯むこと無く、片桐先生はコロコロと笑っていた。
さすが…ベテランなんだろうなあ…俺の顔くらいじゃ動じないようだ。
ふたりともとってもいい子ですって褒めてもらって。
おまけに…
「とってもよく大野さんが面倒みていらっしゃって…」
なんて言われて…なんだかケツの座りが悪い。
翔が予め電話をしておいたんだろう。
話はスムーズに終わって、俺は幼稚園を後にした。