第69章 海鳴り~父、あけぼの荘に帰還す。
二人まとめて胸に抱きとめ、ぎゅうっと抱きしめた。
「ぐるじい…」
「ううう…」
何やら言っているが、このしあわせの塊みたいなやつらを手放すことができなかった。
「萌香…俺、どうしたらいいんだろうなあ…」
雅紀に認めろ、何も言うなと言われても…
次に大野の顔をみたらぶん殴りそうだ。
ちびたちがもぞもぞし始めたから、少し腕を緩めてやると、やっと安心したように眠りだした。
その寝顔を見ながら、いろんなことが頭を駆け巡った。
翔が4歳の頃、雅紀が生まれて。
萌香と一緒になって雅紀を可愛がって…
不器用だが、何年も兄ちゃんしてたら、段々世話も堂に入って、俺よりも器用に世話してたっけ。
ちびたちが生まれた頃にはもう翔は成人していたけど、就職先からわざわざ休暇を取って帰ってきて。
おめでとう!おめでとう!って自分のことみたいに喜んで…
高齢出産で産後の肥立ちが悪かった萌香は、肺炎を拗らせてあっけなく旅立った。
その時、翔はもう発病していて…
でも、まだ前の勤務先はやめていなかった。
症状が落ち着けば、復職する予定になっていたのに…
「ちびたちの面倒、俺が見るから」
そう言って、ここに戻ってきたんだ。
雅紀も漁師になって翔を支えるといい出した。
俺は、外国航路の船員になって、家計を支える決意をした。
あけぼの荘と漁をするよりも稼げるからだ。
その結果、一家の大黒柱として息子達の傍に居てやることはできなくなってしまったが…後悔はしていない。
そうやって…家族皆が支え合って生きてきた