第69章 海鳴り~父、あけぼの荘に帰還す。
「な、なんにも隠してないよお…」
変な汗までかいているじゃないか。
わかりやすいことこの上ないな…
「あれっ…この靴…父ちゃん!?」
厨房から声が聞こえた。
「おお…雅紀」
声を掛けると、バタバタと食堂に雅紀が駆け込んできた。
「えっ…なんで?帰ってくるって連絡あったっけ?」
どうやら外で仕事でもしていたようで、防寒着を着込んでいる。
相変わらず日に焼けて…いい漁師っぷりだ。
「連絡するのを忘れた。今日から一週間、居るから」
「えっ!?たった一週間なの!?」
「しょうがないだろう。今回は日本に寄港しただけだから…」
そう。今回の航海は終わっては居ない。
まだまだ先の話だ。
今回は横浜から神戸から日本各地の港を回るので、その間陸の家族の元に帰れるよう休暇の申請をしておいた。
でも、いられるのはたったの一週間だ。
「本格的に帰ってこられるのは半年先だな」
「またぁ…ほんっと長いよねえ…」
「しょうがないだろう。世界一周する船なんだから」
「そうだけどさぁ…」
今は厳冬期だから、宿は休んでいる。
あけぼの荘の中は閑散としている。
でも、こいつらの様子を見ていると、どうやら上手いことやっているようだ。