第69章 海鳴り~父、あけぼの荘に帰還す。
萌香が亡くなって、頼みにしていた長男は病気になるし、家族の面倒を見るため次男は勤めをやめて漁師になった。
だが、こいつらもいずれ結婚してここを出ていくんだ。
長男については…身体のことがあるから、どうなるかはわからんが…
とにかく父親の俺が、ちびどもの食い扶持を稼がねばならない。
ただ、今は長男と次男に、どうしても面倒をかけてしまっているのが心苦しいが…
「…俺は、こいつらの父親で松岡昌宏という。よろしく頼む」
あぐらを崩して俺も正座をして頭を下げた。
「いえっ…そんな滅相もないっ!」
頭を上げてくださいとお願いされて顔をあげると、改めて頭を下げられ自己紹介された。
卒なく受け答えするところを見ると、前職は営業でもやっていたのか。
「ほう…宿の方と船の方、両方手伝ってもらっているのか…」
「うん。智く…大野さんはね、がんばって船舶も遊漁船業務主任者も取ったんだよ。これから特定操縦免許も取るんだって」
「なるほど…」
なんだこいつは…
うちを乗っ取りそうな勢いじゃないか…
それにしても翔がこんなに鼻の下を伸ばしている顔は初めて見る。
一体どうしたと言うんだ。