第69章 海鳴り~父、あけぼの荘に帰還す。
「で?この小男はなんなんだ?」
小さいのに更に小さくなっている男の襟首を掴むと、食堂にぶち込んだ。
翔の出してくれた座布団に座ると、早速尋問を開始した。
「もお…お父さん、帰ってくるなら言ってよね…」
呆れながらも、翔は茶を淹れてくれている。
「あっ…あの!」
小男がなんとか体勢を立て直して、正座した。
畳に手をつくと、深々と頭を垂れた。
「俺っ…ここで働かせてもらってます、大野智と言います!」
「あ?いつ従業員なんか雇ったんだ?」
翔を見ると、しょうがないなあとため息を付いた。
「手紙書いたでしょう?届いてなかったの?」
「あ」
そう言えば、帰国してからまとめて封書を受け取った。
随分な束になっていて、読むのが面倒でそのまま持って帰ってきたのだった。
俺の仕事は外国航路の船の乗組員で。
普通だったら携帯を持っていれば連絡が着くのだが、面倒なので手紙でやり取りするよう子どもたちには言いつけてある。
携帯料金だってばかにならないのだ。
俺にはまだちびどもが居るから、金を稼がねばならない。
そして、貯金しなければならない。
定年の年にはまだあいつらは成人していないのだから…