第69章 海鳴り~父、あけぼの荘に帰還す。
勝手口の戸を開けると、小さい男が俺を見上げていた。
「…誰だ」
「あんたこそ…誰だ」
午後も2時になろうとしている。
俺はなぜか小男と睨み合う形になっていた。
日に焼けた顔に目一杯不信感を表明しているが、残念ながらここは俺の家だ。
男はねじり鉢巻のようにタオルを頭に巻いて、エンジのMA-1を着込んで、カーゴパンツを履いている。
まるでコソ泥である。
「ここは俺の家だ」
「ふがっ…!?」
小男は後ろに飛び退ると、自分のサンダルを踏んづけて床に思い切りコケた。
そのまま呆然と俺を見上げた。
「おっ…おとうさん!?」
「俺は、おまえのような息子を作った覚えはない」
ずいっと勝手口から厨房に入る。
「おまえ、強盗か?」
「ち、ちがっ…」
男は額に汗を浮かべながら後ずさっていく。
「あ、怪しいものではありませんっ…!」
そういう奴が一番怪しいのだ。
俺は食器棚の上に手を伸ばすと、こんなこともあろうかと随分前に用意していた金属バットを取った。
ホコリが舞ったが気にしない。
「まっ…待って…!」
その時、廊下のガラスの引き戸が開いた。
「智くーん?どうしたの?」
入ってきたのは、長男の翔だった。
「おと…お父さん!?」
ここはあけぼの荘。
俺と妻の萌香が建てた、釣宿であり民宿である。
萌香はとっくに亡くなったが、ここは長男の翔、漁業は次男の雅紀が継いでいる。
あと、ちびが二匹ばかりいるが、こいつらはまだ戦力にはなっていない。