第68章 傾城屋わたつみ楼-常磐色-
「わあっ…櫻井さんもいるっ…凄いっ…」
朽葉ははしゃいで俺の身体をぶんぶん振り回す。
「ちょ、ちょっと朽葉っ…」
「ねえっ…雅紀っ!雅紀に会った!?とっても喜ぶよ!」
「朽葉…」
「だってねえ…いつも蒼乱さんと櫻井さんが羨ましいねって話しててさ…」
にこにこと朽葉は俺たちの顔を見る。
「雅紀、とっても元気だよ!何処行ったのかなあ?」
突然ぱたんと朽葉は畳に倒れ込んだ。
「朽葉!?」
親指を咥えて、目を閉じた。
「電池…切れたな…」
達也さんが立ち上がって、朽葉に毛布を掛けた。
「もう…ずっとこんな状態なんだ…」
たまに正気に戻る時があって…
その時は死のうとするから、片時も目が離せないんだという。
「達也さん…そこまで…」
「いや、俺にもちょっと雅紀に借りがあってね…だから、朽葉の面倒は最後まで看るつもりだったよ」
達也さんは涙を着物の袖で拭った。
それは雅紀のいつも着流していた着物だった。
「でも…朽葉はここから出たほうがいい…」
そう呟くと、俺と翔に頭を下げた。
「正気に戻るまででいい…朽葉を頼んでいいか…?」
畳に手を付いて、深々と頭を下げる達也さんの顔を上げさせた。
「やめてよ…お願いされなくても、俺たち決めてきてたから…ね?」
そういうと、達也さんは頷いた。
「頼む、蒼乱…いや、智…」