第68章 傾城屋わたつみ楼-常磐色-
「朽葉…ずーっと雅紀のこと好きだったもんねぇ…」
もしかして…紫蘭ちゃんも…?
ずっと雅紀のこと…
雅紀が朽葉と出ていくって知って、それであんなことしたの…?
達也さんの隣に座ると、朽葉を受け取った。
眠っているからか、身体が温かい。
相変わらず黄色の襦袢を細い体に纏って…
あの頃よりも随分痩せた…
「俺が…朽葉を引き取ります」
静かに涙を零していた達也さんは驚いて俺の顔を見上げた。
「…蒼乱?」
「翔も、賛成してくれてます。朽葉は俺の弟みたいなもんだから…」
「でも、蒼乱…」
「聞きました…朽葉の親は…引き取らないでしょう?」
正広さんから聞いたんだ…
俺がわたつみ楼を出た後、朽葉にはまた借金が増えて…
それで年季明けが遅れたって。
朽葉には頼れる身内が居ない。
「う…ん…」
腕の中で朽葉が身じろぎした。
「眩しいよお…」
「あ…ごめんね?起こしちゃったね……」
そっと腕の中にいる朽葉の頬を撫でると、目を開いた。
「蒼乱さん…?」
「そうだよ…久しぶりだねぇ…朽葉」
「ほんとに?ほんとに蒼乱さん?」
目に涙をいっぱい溜めて、朽葉は笑った。
「会いに来てくれたの!?ねえっ…」
身体を起こすと、がばっと抱きついてきた。