第68章 傾城屋わたつみ楼-常磐色-
達也さんの腕の中…
「朽葉…」
赤ん坊のように眠っている朽葉が居た。
「わざわざ…来てくれたのか…正広が連絡したのか?」
「うん…ごめん、遅くなって…紫蘭ちゃんのお葬式、間に合わなかった…」
「いや、いいんだ…来てくれてありがとうな…」
達也さんはそっと朽葉を抱き直すと、押入れから出てきた。
「櫻井さんも…すいません。わざわざ…」
「いいえ…山口さん…その節は…」
二人で軽く頭を下げあってから、居間に移った。
達也さんは朽葉を抱いたままだ。
暫く座ったまま、朽葉を見つめて黙っていた。
正広さんがお茶を出してくれて、また沈黙が落ちた。
「…朽葉な…もう年季が明けてたんだ…」
「え…?」
「でも、雅紀と一緒にここを出て暮らす約束してたんだと…だから金を貯めるのに暫くここで働くことになって…」
そっと達也さんは朽葉の髪を撫でた。
「もう…あと少しだったんだ…あと少しでふたりは…」
「達也さん…」
「俺が…俺が殺したようなもんだ…俺が引き止めなきゃ…」
「それは違うっ…」
正広さんが強い口調で遮った。
「達也のせいじゃないっ…誰のせいでもないっ…紫蘭が弱かっただけだっ…なんで無理心中なんかっ…」
今度こそ声を上げて、正広さんは泣き崩れた。