第68章 傾城屋わたつみ楼-常磐色-
「朽葉さんっ…朽葉さんっ…起きてっ…」
誰かが押入れの戸を無遠慮に引き開けた。
「なぁんだよお…眩しいよ…」
「し…紫蘭さんがっ…」
ぼんやりとした視界に、大汗をかいてる紫蘭ちゃんの部屋子がやっと見えた。
「どおした…?」
なにやら緊迫してるが、眠くて…
たくさん夢を見た気がする。
とても…懐かしい夢…
「雅紀さんとっ…」
音が…聞こえない
それからのことは、まるで他人事みたいで。
ひとつひとつがデジカメで撮った画像みたいにしか覚えていない。
紫の間の奥の部屋
部屋子とふたりで駆け込んだ
室内には紫蘭ちゃんの好きな沈香の香りが漂ってる
部屋子が何かを言いながらその場で崩れ落ちた
その身体を支えながら明るい室内に目を遣った
薄紫色に設えた室内に、絹の紫のカバーを掛けた布団
その上に横たわる、紫蘭ちゃんと雅紀がいた
手首を縛りあって、息絶えていた