第68章 傾城屋わたつみ楼-常磐色-
”情けないなあ…俺はとっくにあいつから自由になったと思ってたのに…”
雅紀の温かい声が脳裏に蘇る。
”おまえがまさか俺を自由にしてくれるとはね…”
びっくりしたでしょ?
だって俺は、ずっと雅紀のことが好きだった。
ずっとずっと…雅紀に抱かれる前から…
雅紀のことが好きだったんだ…
なんでだかわからない。
でも、初めて会った時…
常磐の間に座るおいらん姿の雅紀は
とても綺麗で
この世のものとは思えないほど、靭やかで美しくて…
なのに、いつも眼には暗い影を落としていて。
引き回しになった後も、その影はずっと雅紀の目を真っ暗にしてたんだ。
いつか…いつか俺が…
その影を追い出してあげる
雅紀を自由にしてあげる
そう思って、ずっと…
だから、親の仕打ちにも耐えられた。
男を思い通りに気持ちよくさせることができる自分に耐えられた。
全ては…雅紀…
あなたのために…
あなたと一緒にこの龍宮城を出ていくため
あなたと一緒に生きていくため…
だから俺は、生きてこられたんだ
あの瞳に、温かい光をいっぱいに満ちさせるため…
もう、悲しいこと思い出さないように…
ねえ、蒼乱さん…俺、ちゃんとできたよ…?