第68章 傾城屋わたつみ楼-常磐色-
俺が抱くのは、朽葉だけ
達也さんに抱かれても、他の子と添い寝しても…
俺が抱きたいのは、たった一人。
朽葉だけだった
「自由に…してあげる…雅紀」
「朽葉…」
ぼろぼろと涙を零しながら、朽葉は俺に抱きついてきた。
「ごめんな…待たせて…」
「ううん…ううん…」
そっと俺の右腕を取ると、手首から肘に舌を這わせた。
その大きな傷の痕に唇を付けると、朽葉は俺を見上げた。
「ごめん…正広さんから、全部聞いてたんだ…」
「そっか…」
無理心中されそうになったことは、楼の子たちには伏せられていた。
動揺するから。
俺は暫く入院して、リハビリをしてからわたつみ楼に戻った。
まだ借金が残っていたから。
達也さんが色々計らってくれて、すぐに残りの借金は払い終えることができた。
朽葉はその頃に、店に入ってきた。
だから何も知らないと思っていたけど…
「正広さん、口が軽いんだから…」
「違うよ…俺が無理やり聞いたの」
くすっと笑うと、朽葉は微笑んだ。
「好き…雅紀…」
「ああ…」
朽葉の温かい唇が重なると、体の奥底から湧き上がってくるこの温かいもの…
忘れていた、もの――
人を好きになるって…こんなに暖かい気持ちになるんだな。
朽葉……
好きだよ