第68章 傾城屋わたつみ楼-常磐色-
久しぶりにゆっくりと朽葉の顔を見た気がする。
「おう…残念ながら、すげえイケメンにはならなかったな」
「ぶ…雅紀はイケメンだよ」
「そおかあ?」
朽葉の隣に腰掛けると、こてんと俺に頭を凭れかけてきた。
「疲れた…?朽葉…」
「ううん…大丈夫だよ…」
そっと朽葉の肩に腕を回しかけると、すこし痩せた気がした。
「無理…すんな…」
「してないって…」
朽葉の腕が俺の腰に回ってきた。
「達也さんがね…」
「うん…」
「暫く生活していけるくらいの金を稼いで行けって…言ってくれたよ」
「え…?」
「だから、紫蘭ちゃんがちゃんと復帰するまで、働くことになったから…」
「朽葉っ…」
「いいの…せめてもの恩返しだし…」
静かに俺を見上げる目は、少し陰りがあって…
「朽葉…おまえ…」
「雅紀、添い寝して…?」
ゆっくりと重なった唇から、朽葉の温もりが伝わってきた。
「お願い…少しの間でいいから…」
紫蘭はさっき見たらよく眠っていた。
「わかった…少しだけ、な…?」
小さな身体を抱え上げると、大階段を登った。
朽葉は嬉しそうに俺の首に腕を廻すとしがみついてきた。
「雅紀の匂いだぁ…」