第68章 傾城屋わたつみ楼-常磐色-
「会いたいな…蒼乱さんに…」
「ん?会ってどうするんだよ」
「聞いてみたい…」
「なにを?」
「櫻井さんとの話し…」
「聞いてどうするんだよ…」
ちょっと困ったように紫蘭は首を傾げた。
「そうだね…聞いてどうするんだろ…」
こいつだって元々ストレートだ。
大半の子がそうであるように、娑婆に戻ったら普通の男として生きていくんだ。
男同士の恋物語なんて聞いてどうするってんだ。
今までこんなこと言ったことがなかったのに。
「なんだよ、好きな男でもできた?」
ちょっとからかってみたけど、紫蘭は笑うだけだった。
わたつみ楼に帰ったら、ちょうど昼時で。
達也さんが顔をだしていた。
正広さんは昨日の寝不足が祟って、まだ寝ていた。
「雅紀…うわぁ…」
達也さんが俺の顔を見て気の毒そうな顔をした。
「男っぷりあがったでしょ?」
「くく…まあな」
紫蘭を見ると、すぐに帳場の奥を顎で差した。
のれんをくぐって入ると、ソファに腰掛けた。
「おまえたちも座れ」
達也さんに言われて、俺たちも座った。
「で、落ち着いた?」
「はい」
達也さんは紫蘭に優しく微笑むと、しっかりと答えたから破顔した。