第68章 傾城屋わたつみ楼-常磐色-
「だい、じょうぶ…」
俺の顔を見ると、夢見るみたいな顔して…
「紫蘭…?」
「雅紀…」
ぎゅっと握っていた手を握り返してきた。
「あったかい…」
「ああ…すまなかったな…」
手が温かくなったら、布団から起き出した。
「表、見てくるわ」
「うん」
「まだ寝てろよ?」
「わかった…」
紫蘭は微笑むと目を閉じた。
羽織を肩がけにして、客に会わないようにそっと帳場に降りた。
正広さんが俺の顔を見て、ぎょっとした。
「雅紀、おめえ…」
「ああ…そんな酷い?」
「紫色…」
「うわあ…」
客の状況を聞くと、もうあと一人帰れば終わりってことだった。
これから達也さんに連絡を取って、あの男の始末をつけるそうだ。
「おまえは、紫蘭連れて病院いきな?付き添ってやれなくてごめん」
「いいんだ。紫蘭のことは俺がきっちりしとくから…健康保険証、出しといて?」
「わかった。やっとく」
客が降りてきたから、帳場で隠れてやり過ごして。
その後、バタバタする楼の空気の中、病院に行くための準備をするのに部屋に戻った。
「雅紀っ…」
朽葉が後ろから追いかけてくる。
「ちょっ…うわっ…酷っ…」
「…やっぱり…?」