第68章 傾城屋わたつみ楼-常磐色-
まだ紫蘭が落ち着かないから、詳しい事情は明日聞くことにした。
正広さんが帳場に居てくれることになって、とりあえず常磐の間に入った。
部屋子に紫蘭を連れてこさせて、ついでに布団も一組持ってこさせた。
俺の布団の横に並べて敷かせると、そこに紫蘭を寝かせた。
「明日の朝、紫の間をいつも通り片付けておいてくれ。暫くは紫蘭は客前に出られないから、準備はしなくていい」
「わかりました…」
「おまえたちは、暫く朽葉についてもらうから…今日はもう寝てろ」
「はい…」
「よく見つけてくれたな。ありがとう」
心配そうにしながらも部屋子は出ていった。
「いてて…」
急に頬が痛くなってきた。
「雅紀…?」
紫蘭が布団の中から、不安げに声を掛けてきた。
「どうしたの?痛むの…?」
「ああ…なんてことないよ。おまえこそ大丈夫かよ…」
枕元に置いてある小さなスタンドライトを点けると、紫蘭の顔を覗き込んだ。
口の端がやっぱり切れてて…
頬も少し腫れてる。
「…殴られたんだな…?」
「うん…」
顔色が真っ青で…
「ちょっと待ってろ」
タオルを濡らしてきて、口端で固まっている血を拭う。
その間、紫蘭は黙って俺の顔をじっと見ていた。