第68章 傾城屋わたつみ楼-常磐色-
朽葉の顔が近づいてきて、唇が重なった。
瞬間、ガリッと音がして鋭い痛みが走った。
「痛っ…」
少し顔を離した朽葉の唇は真っ赤だった。
「雅紀…なんで…?なんで俺を受け入れてくれないの…?」
ぽたり、唇から鮮血が滴った。
白い肌着に真っ赤な花が咲いたようだった。
「…おまえ、ストレートだろ…?俺が好きなんて、気の迷いなんだよ…」
静かに言うと、手の甲で唇を拭った。
べっとりと赤い血が筋を描く。
「ちがうっ…ちがうもんっ…」
「違わない…朽葉。こんな場所にいるから、俺なんかがよく見えるんだよ」
朽葉が胸に飛び込んできた。
ぎゅうっと俺を縛り付けるように抱きしめる。
「じゃあなんで俺を抱いたの!?仕事だから?」
「……そうだって言ったら満足なのか」
ぐいっと身体を引き剥がすと、ボロボロと朽葉は泣き出した。
「最っ低っ…」
頬に衝撃が走った。
朽葉が拳を握りしめて震えている。
畳にまで唇の鮮血が散った。
ああ…後で拭かなきゃな…
台所にぞうきん置いてたかな…
下に、取りに行かなきゃかな…
「……何考えてるのっ…!?」
「え?」
「今、何考えてたの!?俺が居るのにっ…」
「あ、ごめん…」