第68章 傾城屋わたつみ楼-常磐色-
いつもは敷きっぱなしにしておくんだが、なんとなく今日は布団を畳んで、部屋の隅に積んだ。
なんで紫蘭があんなことをしたのか…
俺にはよくわからなかった。
「雅紀…」
入り口の引き戸に凭れるように朽葉が立っていた。
「おう。どうした?」
「紫蘭ちゃんと寝たの?」
「…添い寝だよ?」
こんなことは珍しいことじゃない。
入ってきたばかりの新人にはよくしてやってることだし…
紫蘭が特別なわけじゃない。
朽葉は…まあ、それ以上のことはしちゃってるけど…
でもそれは、朽葉が生きていくために必要なことなんだ。
「ほんとに…?」
そっと黄色い襦袢を纏ったままの姿で歩いてくる。
ぺたりと俺の前に座り込むと、俺の目を真っ直ぐに覗き込んだ。
「…本当だよ…」
その目の奥に、炎が見えた。
でもそれは、見ちゃいけない。
嫉妬という紅蓮の炎――
「部屋に帰りな。俺は出かけるから」
「どこいくの?」
「どこでもいいだろ」
「…嘘…なんでしょ?」
「え?」
炎が濃くなった。
「雅紀に行く所なんて、ないでしょ?」
その通りだった。
だけど、俺はこれ以上朽葉と居たら、いけない気がした。
「嘘…つき…」
ゆっくりと朽葉の手が伸びてきて、俺の頬を包んだ。
さっきまで紅蓮の炎を宿していた瞳には、冷たい光。