第68章 傾城屋わたつみ楼-常磐色-
その後、本当に紫蘭は常磐の間に来た。
「…本気だったのか…」
「そーだよ?悪い?」
「いや、悪かないけどさ…」
ちらっと紫蘭は俺の後ろを見た。
誰かが居ないか確認したんだ。
「…朽葉なら居ねえぞ?」
「そっか」
あからさまにホッとした顔をした。
「じゃ、寝るか…」
奥の襖を開けて羽織と着物を脱いだ。
面倒くさいから、肌着のまま寝ることにした。
ゴロンと布団に寝転がると、紫蘭が入ってこない。
起き上がって居間を見たら、ちょっと紫蘭は戸惑った顔をしていた。
「どうしたんだよ。添い寝してほしいんだろ?来いよ」
「い、いや…その…」
ははあ。
どうやら、朽葉を来させないための作戦のようだ。
なんだかんだ喧嘩もすることもあるけど、朽葉のことが心配なんじゃねえか…
「悪いけど、他に布団持ってねえんだ。一緒に寝ないんなら部屋帰りな」
「ねっ…寝るもん!」
ずかずか歩いて奥の間に入ってきた。
布団の横に座ると、じっと俺を見た。
「なんだよ…」
「…ごめん…」
そう言ってそっと布団に入った。
「なにしおらしいこと言ってんだよ…」
俺も布団に入ると、紫蘭の頭の下に腕を通した。
「枕一個しかないから、これで我慢してくれよな」
「…わかった…」