第68章 傾城屋わたつみ楼-常磐色-
不安げな正広さんに、達也さんはクッションをポーンと投げた。
「ばーか…おめえらが居る限り、ここは畳まねえよ?」
「え?」
「…だから、ここの会計は上には別にするよう頼んであるんだ。儲けなんか、度外視なんだよ」
「…どういうこと?」
少しだけ、達也さんは悲しげに笑った。
「ここは…そうだな。俺の罪を濯ぐ場所…」
「罪?」
「俺はな…そうだなあ。おまえらの前じゃ善良ぶってるけど、本当は人様にまともに説教もできない人間なんだよ」
「な、何言ってんだよ…」
正広さんが戸惑ってる。
「…人は…悪いこともするけど、いいこともする。俺は他ではいいことができなかったから、せめてここではいいことしたいんだよ…」
そう言うと疲れたように背もたれに身体を預けた。
「…だから、安心しろよ…な?」
「達也…」
確かに、この楼は…
借金の肩代わりをしてくれるが、楼にした借金に法外な利子をつけるようなことはしなかった。
店の子たちに、無理な商売をさせるようなこともしなかったし、むしろ横暴な客からは過剰すぎるほど守ってもくれた。
店に来た客も大切にするし、店の子も大切にする…
俺たちみたいに途方もない借金を抱えた身にはありがたすぎるほど、ありがたい場所だった。