第68章 傾城屋わたつみ楼-常磐色-
深夜になると、それぞれの客は二階の部屋に収まった。
今日は座敷で酒を過ごす客も居たが、どんちゃん騒ぎになっても居ないから、楽なものだった。
帳場の奥の部屋に呼ばれて入っていくと、達也さんと正広さんが顔を突き合わせて話し合ってるとこだった。
応接セットのソファに腰掛けながら、テーブルには何枚も書類を広げてある。
「失礼します。今、終わりましたんで…」
それでも俺は、店の子たちからどんなヘルプがあるかわからないから、朝まで店番だ。
「ああ…お疲れ。ちょっとここ座ってくれ」
達也さんに示されて、正広さんの隣に腰掛けた。
俺のこと信用できないって言ったけど、やっぱり現場に張り付いてる時間は俺のほうが長いから、次のおいらんと座敷持ちについての話し合いに参加させられた。
「朽葉が抜けるとキツイけどね…」
「まあな…なんだかんだと蒼乱と双璧だったからなあ…」
「紫蘭ちゃんは頑張ってるけど、顔が濃いから好みが分かれるしねえ…」
正広さんはなにげに酷いことを言っている。
それを聞いて、達也さんはどこか遠い所を見るように笑ってる。
「……ねえ…まさかと思うけど、ここを畳もうとか思ってないよね?」
正広さんが不安げに聞く。
「え…?なんで?」
「だって…蒼乱が居なくなってから売上はガタ落ちだし…この上、朽葉まで居なくなったら…立ち行かないんじゃないの…?」