第68章 傾城屋わたつみ楼-常磐色-
一通り座敷に客が入ると、一段落着く。
その間に帳場に戻ると、達也さんが来ていた。
「あれ…どうしたの?珍しい…」
いつもは昼間の時間帯に来るのに。
「ああ…もうすぐ朽葉の精算ができそうだからね…ちょっと帳簿を詰めに来たんだよ」
「あ…そうなんだ…」
「朽葉の次のおいらんも決めなきゃいけないからね…」
ここの楼はおいらんが二人と座敷持ちが二人、常時居る。
その他にも臨時に部屋子から一時的に格上げになる子が居て、二階に部屋を充てがわれる事がある。
今の座敷持ちから次のおいらんが決まる。
自動的に部屋子の中から次の座敷持ちも決まる。
位が上がるとそれだけ客から取る金額も増える。
でも衣装なども凝ったものになるので、結局は入ってくる額は変わらないのだが…
やはりどんな境遇でも”自分の部屋”が欲しいというのが人情で。
そうじゃない限り、見習いから何から皆まとめて大きな座敷で雑魚寝をする日々だ。
水面下では熾烈な争いが繰り広げられている。
「雅紀はどっちがいいと思う?」
いつもこうやって達也さんは、現場に張りついてる俺の意見を尊重してくれる。
それは、俺がお職だった頃から変わらない。
「だーめだ。雅紀の意見なんか」
帳場の奥からのれんをくぐって正広さんが出てきた。