第68章 傾城屋わたつみ楼-常磐色-
蒼乱はいつも商売用の部屋では寝ないで、居間に布団を敷いていた。
空間と時間を区切りたいのだと言っていた。
紫蘭は商売用の部屋で寝てしまうけど、必ず別で自分の寝具を敷いて寝ている。
俺は…どうだったかな。
遠い昔だから忘れちまった。
朽葉は…いつ頃からだろう。
明るいと眠れないと言って、押入れで寝るようになってしまった。
「起きろ。朽葉」
「ん~…?」
「もう夕方だぞ。すぐ支度するから起きろ」
「えっ…もう?」
慌てて起き上がると、押入れから飛び降りようとする。
「ほら、掴まれよ」
手を差し伸べてやると、嬉しそうにその手を取った。
「ありがとう…」
そのまま手を引いて洗面所につれていくと、部屋子たちが入ってきて、朽葉の世話を始めた。
「準備してるから来いよな」
「うん。ごめんね」
もう時間がなかったから、すぐに朽葉の支度を整えて座敷に出してやった。
「ほら、行って来い。今日は蜷川さんだろ?」
「うん。失礼のないようにしなくっちゃ…」
山吹色の打ち掛けは、とても朽葉に似合っている。
髷に指を入れながら朽葉は、部屋に戻っていった。
「さて…今日もやりますか…」
帳場に降りていって予約の確認をする。
今日も予約でいっぱいだ。