第68章 傾城屋わたつみ楼-常磐色-
ご機嫌を損ねたようだ…
「参ったなあ…」
まあ着物を着るのも、部屋子がいるから問題ないんだろうけど。
いつもは俺が全部身支度してやるのに、拒絶されてしまった。
「…起こしてくるか…」
座敷持ちの二人にはもう支度をしてある。
後は朽葉だけだ。
支度部屋を出ると”山吹の間”の襖を開けた。
「朽葉、居るか?」
中の襖を開けると居間に出る。
そこは優しい黄色に包まれた穏やかな部屋。
そこに朽葉の姿はなかった。
「…やっぱり寝てるか…」
ここの子はお職になる時に自分の”色”を決められる。
もちろん先輩が使っている色はだめだけど、それ以外ならトレードマークになる色は自分で決められた。
気性の激しい朽葉なのに、なぜだか部屋はいつも明るく優しい黄色に包まれている。
まるで陽だまりのように穏やかで…
奥の襖を開けると、そこも薄い黄色で統一された室内。
その真中に、真っ赤な寝具がある。
そこは毎日、朽葉が商売をしている褥。
「おい。朽葉起きろ」
でも朽葉が寝ているのはその奥だ。
押入れの戸を開けると、上段に丸まって眠る朽葉が見えた。
「…ドラえもんかよ…」
すやすやと眠る頬をむにっと摘んでみた。