第68章 傾城屋わたつみ楼-常磐色-
「…また朽葉と寝たの…?」
夕方、紫蘭の髪を作っていると鏡越しに非難するような目で見られた。
華やかな紫蘭は、この楼のおいらんで。
長いこと座敷持ちだったが、蒼乱が抜けて昇格した。
入ってきたのは紫蘭のほうが随分後なんだが、朽葉とは同年だから仲がいい。
今は蒼の間は、紫蘭に合わせて改装して”紫の間”に変わっている。
「朽葉が言ったの?」
「まだ寝てる」
「あ…」
はぁっとため息を付いて、また紫蘭は俺を睨みつけた。
「あれじゃ今晩役に立たないんじゃないの?」
「…わかってるよ…」
きゅっと元結を締めると、紫蘭は俺を振り返った。
「…たまには商売抜きで寝たいって気持ちはわかるけど…どうしてあんなになるまで抱くの?」
「うん…わかってんだけどね…」
振り返った紫蘭をまた鏡に向かわせた。
「朽葉の気持ちもわかるんだよ…」
「雅紀…」
また鏡越しに強い瞳で見つめてくる。
「……朽葉は雅紀に惚れてるんだよ?」
「違うよ…紫蘭…」
長くてしなやかな髪に櫛を通しながら、次の言葉をちょっと考えた。
「惚れてるってのとはまた違うんだ…」
怪訝な顔をして紫蘭は俺を見た。