第68章 傾城屋わたつみ楼-常磐色-
「…やっぱり…雅紀は上手だね…」
「…まあな…」
元々、俺は美容師をしていた。
だから、ここに来た時からずっと俺はヘアメイク担当みたいになってた。
今でも、その役目は変わっていない。
もうあの頃のようには、手は動かないけどね。
それ以外で変わったのは、客と寝なくなったこと。
それから、借金はなくなったこと。
「さ、できたよ」
切った髪を片付けていると、朽葉は鏡をじっと見ている。
「雅紀さ…」
「うん?」
「なんで外に戻らないの?」
外…
なんて、もう何年出てないんだろ。
もう借金はないから自由の身だ。
だから買い物くらいは行くけど。
「今更…」
そう呟くと、朽葉はこちらを向いた。
「どうして?出たくないの?なんで?」
「なんでもいいだろ…ほら、寝ろよ。今日、身体保たないぞ?」
布団に朽葉を横たえた。
「もうすぐ…精算できんだろ?借金…」
覆いかぶさって言うと、朽葉は目を逸らした。
「そんなの…しらないもん…」
「なんでだよ…聞いたぞ?達也さんから…」
楼主である達也さんは、ある組の幹部だ。
でもここの経営に関しては、一切その縁は切ってやってる。
ここだけその組とは独立していて、全くの達也さんの裁量に任されている形だ。