第68章 傾城屋わたつみ楼-常磐色-
ごろんと横に寝転がると、途端に朽葉は抱きついてくる。
「暑苦しい」
「寒いからちょうどいいでしょ?」
頬に朽葉の髪が当たってくすぐったい。
「あれおまえ…」
「ん?」
「ちゃんとトリートメントしてんのか?毛、ぱっさぱさじゃねえか」
「えー…だって面倒くさいんだもん」
「ばか…せっかくそんな綺麗な髪してんのに…」
身体を起こすと、姿見の横に置いてある籠を取った。
その中から、道具を取り出すと朽葉を姿見の前に座らせた。
「まーたはじまったよ…雅紀ったら…」
「毛先、カットしてやる。じっとしてろ」
ケープを肩に被せて、床にはレジャーシートを敷いた。
朽葉はされるまま、姿見の中の俺をじっと見ている。
腰まである長い髪を横結びにしてあったのを解いて垂らす。
艷やかな黒髪は太くもなく硬くもなく。
「相変わらずいい毛質してんなあ…ちゃんと手入れしろよ?勿体無いから」
「しらない」
少し痛んでる毛先をカットしてブラシを通す。
「前髪とサイドもちょっと揃えるか…」
朽葉の前髪は日本人形のように切り揃えてある。
それが不思議とこの男には似合うから、この楼に来た時からこの髪型で通してる。