第68章 傾城屋わたつみ楼-常磐色-
常磐の間の襖を開けると、ごろりと畳に寝転がった。
「今日も終わったなぁ…」
ここは俺の住む部屋。
緑に彩られた、樹海の果てのような部屋。
窓には障子が嵌っていて、薄く朝日が部屋に滲んでいる。
「雅紀…」
すぐにいつものように朽葉が勝手に部屋に入ってくる。
「なんだ…早く部屋に帰って寝ろよ」
「やだ。今日こそ添い寝して?」
「もう…しょうがねえなあ…」
勝手知ったるなんとやらで、朽葉は奥の座敷に入っていった。
「雅紀ー!早くー!」
「一人で寝てろ」
ここは、俺がお職(おいらんなどの上位の遊女のこと)だった頃の持ち部屋だった。
俺が引き回しになると同時に、楼主の計らいでそのまま俺の寝起きする部屋になった。
二階の一番奥にある。
うちの子たちの監督も兼ねてるから、ちょうどよかった。
あの頃と変わらず…
俺はこの部屋でずっと揺蕩っている。
もう客を取ることもないから、寝具は至って普通の布団なんだが、そこにもう朽葉は寝転んでいた。
「おまえなあ…せっかくおいらんなんだから…」
「いいじゃん…俺、ぬくもりがないと寝られないの」
黄色の襦袢をぴったりと身に纏って、誘うように俺を見上げる。
「…疲れてんだろ…?さっさと寝ろ…」