第65章 仄暗い奈落の底から -prequel-
「…ちゃんと飯食ってんの?翔ちゃん…」
相葉が気遣わしげな目で櫻井を見ると、少し微笑んだ。
「食ってる食ってる…あ、ここの払いは経費で落とすから、なんでも頼んでよ」
都心の一流レストラン。
櫻井はここを接待でよく使うらしい。
今日は相葉と松本をベンチャーの社長としてディナーに招待している。
テーブル周りは薄暗く、グラスの中には水に浮いたキャンドルが浮いてほんのりと痩せた櫻井の顔を照らしている。
「翔…あのさ…」
「うん?」
ワインリストを見ながらも、櫻井は微笑みを絶やすことはない。
「次、何飲む?白?やっぱり赤?」
「いや…いい。もう充分…それよりさ…あの…」
「ああ…融資の話?無理だよ…業績悪くないじゃないか…」
「そうじゃない」
松本の顔が引き締まった。
「取引…しないか…?」
「え…?」
相葉が黙って松本の顔を見ている。
その顔も、真剣だった。
「翔が…あの二人を手に入れられる手伝いを、する。その代わり、翔は俺達の会社に融資する…」
「は…?何言ってんだよ…そんなことできるわけ…」
「翔、もし…それができるとしたら?」
「え…何言ってんだよ…おかしなこと言うなよ、潤…」