第65章 仄暗い奈落の底から -prequel-
櫻井は目を細めると、唇の端を引き上げた。
「だから…智くんもニノも…俺のものにしたい」
あまりの事に、相葉と松本は言葉を失った。
「そ、んなこと…」
掠れた声がやっと相葉から発せられると、櫻井は笑いだした。
「そうだよなあ…おかしいよな…」
「翔…」
「俺、おかしいんだ…おかしい…」
俯いてしまった櫻井の肩は震えていた。
「翔ちゃん…」
「なあ雅紀…俺、どうしたらいいんだろうな…?」
俯いたまま声まで震えてきた。
「俺…俺の気持ち…どこに持っていけばいいんだろうな…」
櫻井は…あの二人が男同士であるという壁を乗り越えられるとは思っていなかった。
望んでいたのは、一生このままの関係。
二宮も大野も、そして櫻井も…
お互いを思いあったまま、このままで居ることだった。
櫻井もまた、男同士であることを乗り越えられずに居たのだ。
大野と二宮の気持ちはわかっていた。
しかしそれは、お互いだけに向けられたものではないと…
そう櫻井は感じていたのに…
「俺だけ…置いて行かれた…」
「翔…」
相葉と松本は、櫻井に掛ける言葉もなかった。
はらはらと涙を落とす、こんな姿を見るのは子供の時以来だった。