第65章 仄暗い奈落の底から -prequel-
店員に注文をすると、松本は席に向き直った。
「いやあ…参ったよ…半期決算…」
「そう…」
櫻井の反応は薄いものだった。
いつもなら、もっと突っ込んだことを聞いてくるのに…
「翔…?どうしたんだよ?」
「いや…なんでも…」
「なんか元気ないよ?大丈夫?」
相葉が櫻井の肩に手を掛けた。
ウエイターがビールを運んできて、話は一旦中断された。
「…じゃあお疲れ」
「智と和也まだだけど、始めようぜ?」
「おう…」
カチリとグラスを合わせると、相葉と松本は一気に飲み干す。
「うめえ…」
「お通しこれ、なんだろ?」
「バイ貝じゃね?」
「翔、これ好きじゃん!食べなよ!」
「ああ…」
相葉が話を振っても、櫻井は乗ってこない。
心がここにないように、ただ座っている。
「ホントに…どうしたんだよ?翔…」
「いや…」
コトリとグラスをテーブルに置くと、櫻井は二人の顔を見た。
半個室には店内の喧騒が聞こえてくる。
櫻井は暗い影を顔に落としながら、口を開いた。
「…おまえら…知ってたの…?」
「え…?何を?」
薄く笑う櫻井の表情は、楽しげなものではなく…
背筋が寒くなるような笑みだった。
「智くんと和也…付き合ってんだろ…?」
松本と相葉は息を呑んだ。