第62章 新・忍びのむに
「あ!潤之介!」
「なんじゃ、無門殿」
ぱっと無門は手を離した。
「あのな。ケンカしても、家にはいれてくれよ?」
「……?あたりまえじゃろうが」
「ああ…よかった…」
不思議そうな顔をしている潤之介の尻を、無門は思いっきり叩いた。
「痛いではないか!」
「よおおし!行くぞ!潤之介!」
「あっ…こら、またぬか!無門殿!」
僧形姿の二人は、笑いながら岡崎の町を駆け抜けていった。
この後、家康は秀吉に最後まで抵抗し、次の時代の重要人物になっていく。
その裏には、無門と潤之介の活躍があったのは言うまでもない。
潤之介の言うとおり、家康は長生きをして秀吉亡き後は、時代の主役になる。
その影に常に二人は寄り添った。
京の家はずっと無門と潤之介が暮らすことを許された。
二人は末永く、いつまでも仲良く暮らしていった。
「無門殿」
「なんじゃ、潤之介」
「京の家が決まったら、鉄殿も引き取ろうか」
「えっ」
「鉄殿に鍛冶屋を持たせてやることができるではないか」
「…いいのか?潤之介」
「ああ…」
無門はちょっとだけ泣きそうな顔をして前を向いた。
「ありがとう…」
「なんの…そのかわり…」
「ん?」
「教えてはくれぬか?」
「なにを?」
「本当の名前…」
「…それは…」
どう応えていいやらわからぬ無門に、潤之介は微笑んだ。
「いいのじゃ…その話も、道中ゆっくりと聞かせてくれるな?」
「うん…わかった…」
きゅっと無門は潤之介の袖を握った。
「おまえも、聞かせろよ?」
「え?」
「雑賀に居た時の話!」
にやりと潤之介は笑った。
「よいぞ…?無門殿がヤキモチを妬かぬならな?」
「やっ…妬くわけないだろお!?」
二人は笑いながら、道を駆け抜けていく。
いつまでも…いつまでも…
二人の行く先は、まだまだ長い道が待っている。
そして無門は潤之介に手を引かれ、いつの間にか明るい場所に立っていた。
それは、朝日のように明るく眩しい…
【終】