第62章 新・忍びのむに
「なんでじゃ…気に入らぬのか」
「いやぁ…」
言ったまま、潤之介と無門は顔を見合わせた。
家康は苦虫を噛み潰したような顔をしている。
岡崎城のあの板敷きの部屋で、また二人は家康に対面している。
家康の傍らには年若い、井伊直政が控えている。
「俺らに武士は無理だよ…」
「なぜじゃ…秀吉とて足軽から大名じゃぞ…」
「それでも秀吉ってやつは、武士になりたくてなったんだろ?俺たち別に武士になりたくないもん」
無門が言うと、家康は笑いだした。
「そうであった。では褒美を取らす。なにがよい?」
「んー…」
「では、家康様。無門と私の暮らす家を京にくださいませ」
潤之介が言うと、家康は目を丸くした。
「なんだと。京に?」
「はい。京の探索にひとつ、町家を賜りたく存じます」
「…そこに二人で暮らすのか」
「はい。無門殿と私で…」
そう言うと、家康はちらりと傍らの直政を見た。
直政は容姿美麗で、評判であった。
家康は直政を”万千代、万千代”と幼名で呼び、特にかわいがっていた。
その直政はじっと家康を見つめると、ぽろりと可愛らしい微笑を零した。
「殿様。この者たちは、我らと同じでございますね」
直政が言うと、家康はへどもどした。