第62章 新・忍びのむに
「潤之介はもう雑賀には帰らないのか…?」
「帰らない。帰ったとて、もう俺の居場所はないしな…」
「そうか…」
潤之介は無門の顔を覗きこむと、少し笑った。
「俺は家康様についていくぞ。無門殿もそうすればよい」
「え?家康…?」
「そうじゃ…彼の方は、長生きされるぞ…そのうち天下をとられるのではあるまいか…」
「へえ…あんな肝っ玉が小さそうなのに…」
「だからじゃ。肝っ玉が小さいほうが、慎重になるゆえな」
「なるほどね…」
潤之介の襟をいじっていた手を止めた。
「京には、お国の墓がある…」
「おお…そうであったな…」
「だから京で暮らそう。鉄にも鍛冶屋を作ってやらねばならん」
「…あの一緒に暮らしておった少年か?」
「うん…」
「そうか。ならば金が要るのう」
「うん…要る」
もう忍び働きで金を稼ぐことはないと思っていたが…
潤之介と一緒に、どんな時代になるのか見届けるのも悪くないのかもしれない。
「よし。俺も鉄殿の鍛冶屋に一肌脱ぐぞ」
「潤之介…」
「良いではないか。これからも時代は動くぞ…刀鍛冶は大忙しじゃ」
「うん…うん…!」
「それに京に本拠地を置いておけば、なにかと家康様のお役にも立てるしな…」