第62章 新・忍びのむに
その日は、無門が腰やらなにやらが痛くて起き上がることが難しかった。
潤之介はそんな無門を甲斐甲斐しく世話した。
「無門殿、これは村の民にもろうた甘い木の実じゃ」
「なんだよ…おまえが食べろよ。一個しかないだろ?」
「無門殿食べよ」
「なんで?」
「いいから…はよう」
差し出された木の実を、カリッと半分だけかじった。
「甘い…」
「じゃろう。はよう元気になってくれ」
「もう…」
ふんわりと潤之介の腕に抱かれて、無門は微笑む。
「はい…おまえも食えよ」
無門は半分になった木の実を潤之介の唇に押し当てる。
潤之介は目を白黒させた後、にっこり笑って木の実を口に入れた。
「おお…甘いのう…」
「だろ?」
「これでは俺が元気になってしまう…」
ニタリと意味深な笑いを見せる潤之介を、無門は一発殴っておいた。
またその夜は、お堂で二人で布団にくるまった。
「明日は、出立できると思う」
「おお…では、朝早く起きねばな…」
「ああ…」
潤之介の着物の襟を、無門はいじいじといじっている。
「なんじゃ。眠れぬか?」
「ん…大丈夫…」
昨夜から、一気に無門はかわいらしく潤之介に甘えるようになった。
潤之介は、それを見るたびにちょっと身が持たないと思う。