第62章 新・忍びのむに

「小さい頃に鈴木の家に貰われていった…本当は、そこの惣領息子と一緒になるはずだったが、死んでしまってのう…」

手に持ったままの無門の着物を見つめたまま、声を落とした。

「母者が泣くのじゃ…妹をしあわせにしたいと…」

板挟みにでもなったというのか。

「俺がいつまでも雑賀に居ては、誰もしあわせにならぬ…」

無門には家族のことはわからない。
なんでそれで二人で逃げたらだめなのか。

「翔之進も婿に入るにあたり、櫻井の家に相当の援助があってな…もしも俺と出奔したら、どうなるかわからぬ…」

俯いたままの手に、力が入った。

「忘れてもらうしかないんだ…」

悲しげな顔に、増々無門は訳がわからなくなった。

「意気地なしっ！」
「へ？」
「あんたがそんな意気地なしだから…だから誰もしあわせにならないんだろうが！」
「な…なんだと…」
「そんなことになる前に、翔之進を攫って逃げてりゃよかったんだ！この太眉！」
「なっ…眉のことなど今は関係ないであろうが！」
「うっさい！ゲジゲジ！」
「なっ…なんだとこの！どんぐり頭！」

力任せに潤之介が無門の濡れた着物を投げつけてきた。
それを受け止めると無門も投げつける。

暫く無言で着物は投げつけられた。