第62章 新・忍びのむに
「…うぜえんだよ…そういうの…」
言うなり布団から飛び出した。
お堂の障子戸を乱暴に引き開けると、夜の森に飛び出した。
「無門殿!」
後ろで潤之介の呼ぶ声がするが、止まれなかった。
心臓が煩い。
自分のことが大事だなんて、無門には思えなかった。
誰からもそんなこと思われたこともなかった。
お国ですら、そう思っていたのか…
自分の忍者としての技量だけを頼みに生きてきたのに、今更そんなこと考えられるはずもなかった。
やっと少しわかりかけたことは、お国の死によってまた闇の中に戻ってしまったのだから。
だから無門は、今でも闇の中にいる。
抜け出したと思ったそこは、まだ薄闇に覆われていた。
「ちっ…」
舌打ちをして、大木の下に寝転がった。
まだ身体は熱っぽいが、この調子なら朝には下がっているだろう。
「余計なこと言いやがって…」
ぎゅっと身体を丸めて、目を閉じた。
そのまま深い眠りが無門に訪れた。
一刻の後、無門に近寄る影があった。
月明かりに浮かんだのは、潤之介だった。
そっと無門の額に手を載せると、ため息を付いた。
そのまま身体を抱え上げると、ゆっくりと寺に戻っていった。