第62章 新・忍びのむに
寺のお堂を拝借して、暫く宿にする。
どこから用意したのか、潤之介は布団まで用意していた。
「申し訳ないのだが、一組しか用意できなかった」
「いいんじゃね?俺、その辺で寝るから」
「それはいかん」
「は?」
「一緒に寝よう」
「断る」
この時代、男同士が同衾するというのは即ちそういうことである。
男同士がいけないというのは明治期になって入ってきたキリスト教的思考である。
江戸期まで、普通に男同士の夫婦は存在していたし、そのような遊郭まであったのだ。
「なぜだ」
「俺には無理」
きっぱりと断ると、無門は近くの川に行って水を浴びた。
夏が近いので、少々肌寒かったが気持ちが良かった。
暫くすると潤之介もやってきて手ぬぐいに水を浸して身体を拭き始めた。
「気持ちが良いのう、無門殿」
「…ああ…」
さっきのことなどなかったかのように屈託がない。
毒気を抜かれた無門は、裸で河原に寝転がった。
薄闇が空を覆っている。
そのまま眠ってしまったらしく、ちょっと寒くて目が覚めた。
「あれ…」
隣を見ると潤之介も裸で寝転がっている。
「おい、風邪引くぞ」
「ん…」
なんとか潤之介を起こしてお堂に戻った。