第62章 新・忍びのむに
次の日、朝早く安土に向かって出立した。
なんだかしょんぼりとしたままの潤之介相手に、無門はやりきれない。
「なあ、なんで喋らねえの?」
「いや…」
昨日のこと、まだ悪いと思っているのか…
案外神経の細いところがある。
草津まで来てしまえば、あとはすぐだ。
安土には昼前に入ることができた。
「相変わらずすげえ天守…」
山一個がまるまる城になっている。
その頂には、絢爛豪華な天守が見える。
「あんな肝っ玉が小せえのにやるこた凄いね…」
ぼそっと無門が言うと、潤之介は笑った。
なんとなく、その顔をみて無門は安心した。
「無門殿、参ろう」
安土の城下は、賑わっていた。
楽市・楽座が敷かれて、全国から商人が集まっている。
それに何と言っても信長のお膝元だ。
活気だけで言えば、京よりも賑わっているのではないか。
無門や潤之介のような者も紛れ込むには難がないほどであった。
人の集まるところには、情報も集まる。
無門と潤之介はふた手に分かれて、安土の町を飛び回った。
夕刻になって町外れの無人の寺で落ち合った。
「いかがだったかな?」
「んー…何を聞いていいのかよくわからなかった」
がっくりと潤之介は項垂れた。