第62章 新・忍びのむに
「…なあ、お国って誰?」
ペラペラのせんべい布団ではあるが、贅沢にも個室でふたりきりで横になっている。
無門の懐に入っている黄金のお陰なのだが、一向に潤之介はそれには頓着していないようだ。
布団の上にゴロゴロと転がりながら無門に尋ねてきた。
「え…?」
「さっき、風呂で言うておったろう」
「…誰でもいいだろ?」
寝ているとばかり思っていたのに、起きていたのか。
その時に聞けばよいのに人が悪いと無門は思った。
「もしかして、想い女か?」
潤之介の口調にからかいが混じって、面倒になった。
「妻だ」
「…そうか…」
魚油の入った灯明の小皿に虫が飛び込んでいる。
じりじりと芯の焼ける音だけが部屋に篭った。
「もういいだろ?朝早いから寝るぞ」
「ああ…」
急に潤之介はしょんぼりとした。
その様が子供のようで、力が抜ける思いがした。
夜目が利くので、魚油の明かりは消してしまう。
真っ暗になった部屋で、無門は布団を被った。
ごそごそと隣で潤之介も布団を被っている。
「すまなかった」
「え?」
「辛いことを思い出したか?」
「いや…別に…?」
「そうか…ならよかった」
やけに素直で、ちょっと無門は面食らった。