第62章 新・忍びのむに
早々に草津に着き、宿を取る。
そこは小さいながらも温泉が湧き出ている。
宿の裏に葦簀が張り巡らせてあり、石で池を作りそこに湯が溜まっている。
潤之介は温泉好きらしく、宿に草鞋を脱ぐとすぐに湯場に向かった。
「ここの宿は、いつでも湯に入っていいそうだ。夜目の利くものは夜中にまで入っているそうだぞ」
「げ…猪やら熊やら狼やら出るだろうが…」
「そうか?」
簀子の敷いてある場所で着ていた僧衣を脱ぎ捨てる。
さらりと最後の一枚を脱ぎ捨てると、広い背中が現れた。
潤之介の肌は透き通るように綺麗だった。
さすが若い頃は女に化けていただけある。
「なんだ。俺の顔になにかついているか」
「いや…」
女みたいだと思いながら、無門も着物を脱ぎ捨てると露天に向かう。
周りに板が渡してあって、土の上に足を載せずに済むようになっている。
小さい宿ながら、気がきいている。
「おお…良い湯加減だな」
手ぬぐいで顔を拭きながら、潤之介は上機嫌である。
そのうち、手ぬぐいを顔に乗せてヘリの岩にもたれかかって寝てしまった。
「溺れんぞ…」
無門は夕暮れの空を見上げ、一番星を見つけ眺めた。
人は…死んだら天国に行くというが…
天国とはこの空の向こうだと聞いたことがある。
「お国…そこにいるのか…」